お酒なんでも研究所 カフェ部

友人と阿倍野の松虫交差点近くにある表記の店を訪問。たまに訪問したくなる大吟醸日本酒だけを置くかなり趣味性の高いお店。住宅街の中にある築90年の普通の家を改装した隠れ家。目立たず大きな看板もないのでふらりと立ち寄る客はいない。

こちらは都島にあるお酒研究所という機関のカフェ部で支店のようなもの。妙齢の部長のみさこさんがひとりで切り盛りする。カフェ部だけどビールやコーヒーはない。選び抜かれた大吟醸酒だけのお店。ご主人は博士号をもつ本物のサイエンストで研究ひとすじらしい。その方がお酒をセレクションし、マリアージュを追求した肴を考えられる。

普通の家なので店に入ると靴を脱いでお邪魔する。カウンター4席とテーブル(ちゃぶ台)2席のみ。店のセンスはかなりいい・・

グラッパグラスに注がれる大吟醸はすべて1杯500円。そのお酒にあった酒肴もすべて500円。料理7品のフルコースが3500円を3000円で提供される。お酒の中には一升1万円以上のものもあるがそこは量で調整するらしい。

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お酒を頂くごとにみさこさんのご主人が作る持ち帰り可能なお酒解説ファイルがつく。こちらを読みながらいただくととても楽しい。。

この日いただいたお酒は

■宮城県塩釜市 浦霞 大吟醸
■愛媛県四国中央市 梅錦 大吟醸「究極の酒」
■新潟県新発田市 菊水 純米大吟醸
■岐阜県高山市 深山菊 大吟醸
■秋田県横田市 天の戸 純米大吟醸
■大阪府交野市 片野桜 純米大吟醸 白櫻
■香川県琴平町 金陵 限定無濾過原酒 純米大吟醸 大瀬戸の花嫁
■岩手県盛岡市 七福神 長期熟成吟醸酒
■兵庫県西宮市 福寿 生もと純米熟成生酒
■静岡県掛川市 開運 大吟醸秘蔵古酒

コース料理はオリジナルの真空低温調理法をうまく使って構成される。

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一番最初はこちらのお店を代表するタラ白子(タチ)の昆布締め。真空低温調理したものでカンズリと大根おろしを合わせたものを薬味にしてポン酢でいただく。

すべての食材(牛肉・豚肉・鶏肉・魚卵)はタンパク質が凝固する温度が異なるためにそのギリギリの温度を狙って火入れをすると細胞が壊れない。昆布は脱水(離水)のために使用しているために(多分そうだと思う・・・)強い旨みや風味は特に感じないがそれが日本酒の味をしっかりと際立たせる。

プリンプリンでトロトロの舌触りだけど生っぽさは皆無。まさに芸術品のような料理である。「酒に合う」という意味をしっかりと解析し「観察・分析・判断」を繰り返し、他にはない絶品の料理を提供される。真空調理は塩の加減が難しく1ミリ単位の量で大きく味が変化してしまう。

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キングサーモンを低温調理したものを生姜醤油で食す。それぞれの料理にあったお酒が出てくるのがとても楽しい。これも一見したら生のようだけどしっかりと火入れがされている。口に入れると体温で溶け出すのが凄い。世間では大吟醸はフルーティーな香りが強すぎて食事に合わないと言われる方が多いがこちらのお店のセレクションは食中酒にぴったりのすべて目からうろこのものばかり。

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自家製のハムもはゼラチンがたっぷり。こちらでは真空調理は保存のための真空ではなく料理をより美味しく、素材感を引き出すための技法なのでどれもワンランク上の仕上がり。みさこ部長との会話もとても楽しい。見た目も心もカッコいい女性。

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ニラと小さな帆立貝が入った餃子。ホタルイカやウズラの玉子の時もあるし具材はその時々で変わる。しかしながら使われる野菜や調味料は完全に計算されていてこの日はハーブの入った塩でいただく。ニラの漬け物も入っているのか味わいに陰影があって旨みの相乗効果をしっかりと感じる。

この料理に合わせる純米大吟醸は穏やかな香りで料理との調和も抜群。柔らかい余韻の長さが特徴。「日本酒を楽しむ」とはまさにこのことと思った。

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フランス産の鴨ロースもこちらの店のスペシャリティー。個人的には日本一美味しい鴨料理と断言できる。しっとりとした身は真空調理ならではのもの。添え物は葱の昆布締め。山葵醤油でいただく。ここで粉山葵を使うのがこの店の真骨頂で原料はホースラディッシュなので肉との相性は本山葵や最近焼肉屋でよく見る合成保存料たっぷりの茎山葵よりも間違いなく鴨肉がおいしくなる。まさに「粉山葵を舐めたらあかんで!」と言う感じ。博士は本当に食べ物に精通されていることがこの一品をみると理解出来る。

北大路魯山人も過去にパリの「トゥール・ダルジャン」で画家の荻須高徳、小説家の大岡昇平とともに出てきた鴨料理を持参した粉山葵を酢で溶き、それを醤油と合わせてつけて食べたと言うのを昔に聞いたこともある。今でも魯山人醤油としてパリの店では出していただけると聞き及ぶ。(パリの店は行った事はないが・・・)

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続いてこちらのお店で初めて頂く豚トロの味噌漬けを真空調理したもの。脂分はしっかりと流れていて旨みのみが残る佳品。味噌と葱は別添えで薬味としていただく。

この料理に合わせる熟成生酒もかなり美味しい。ノーベル賞の晩餐会で飲まれたもので5年間生熟成させているらしい。吟醸酒は2年くらい寝かした方が美味しくなると言われていてこのお酒も蜂蜜のようなふくよかな香りと味噌というか麹の香りがお酒にドンピシャの相性を見せる。この組み合わせが玄人好みでとても芸術的。

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これも初めて頂くものだけど蒸した海老芋のソテーをバター炒めの甘露子と合わせたお正月らしい逸品。熟成感たっぷりの古酒はまるでシェリーのような感じ。海老芋の旨みというか美味しさの輪郭が際立つのが面白い。バターの動物性タンパク質やお酒の旨みなどがシンクロするのであろう。薬味として添えられているのは手作りの鯛がたっぷり入った鯛味噌と生姜味噌。古酒にドンピシャ。こんなおいしい野菜料理は生まれて初めて食べた・・

みさこ部長のご主人の博士はまさに天才・・

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最後に先ほどいただいた長期熟成の片野桜を燗で頂く。大阪錫器のもので手触り口当たりも素晴しい。個性たっぷりで独特の渋さとひね感、香ばしさ、いい意味での雑味が米焼酎のようでとても面白い。温かくしたときの味の変化に驚く。お酒が生来強い方なのと飲み飽きしないのでいつも飲み過ぎて酔っぱらってしまうのがもったいない。

仲のいい友達と2人で行って間接キスをしながらお酒と料理をシェアするのがお薦め。お店が狭いので予約必須。訪問するときはペロペロ見たと言えばわかりやすいよ。

本年最後を締めくくる5本の指に入る大好きな店。

ホントはここは誰にも教えたくなかったな・・・

大阪市阿倍野区王子町1-7-8
080-4413-2685
17:00-23:00頃
月火(祝日の場合は営業)


カテゴリー 松虫, カフェ, 居酒屋 |